福岡地方裁判所久留米支部 昭和44年(ワ)10号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕<証拠略>によれば、被告藤崎康夫は当時見通しの良い乾燥した平担な国道三号線上本件事故地点手前附近において、同国道東端より約一メートル幅の白線をもつて区別された歩道上の中央よりやや西寄りを、時速約二〇キロメートルの速度で、自転車を運転して走行し、本件事故地点附近にさしかかつたこと、同被告は本件事故地点より約一二メートル手前に至つて、老人の訴外高柳勇が同道路東端に佇立しているのを発見、約五メートル進行して同訴外人との距離が約7.5メートルの地点に達したとき、即に同訴外人が同道路の横断を開始して二歩ほど前進歩行していたこと、その同被告は自転車を加速することなく惰性による速度で走行し、同訴外人の背後を通過するべく、直近に差しかかつた際、既に歩道部分を超えて、約二、三〇センチメートルほど車道部分に歩を進めて横断歩行していた同訴外人が突如右足を後方において歩道部分を超え、引き返えそうとしたこと、その際、同被告は既に同訴外人の至近距離に迫つていたため、衝突直前急に大きくに左転把して同訴外人を回避しようとしたが及ばず、同被告の右肩部分が同訴外人の右肩部分と接触して、同訴外人をその場に仰向けに押し倒したこと、当時同被告が進行する歩道上同訴外人を発見した地点より、同訴外人が佇立していた地点との間は、他に通行人が存在しなかつたこと、本件事故地点から約三〇メートル四方および同地点から北方約五〇メートルにそれぞれ横断歩道が存在することが認められる。
右事実によれば、被告藤崎康夫は訴外高柳勇を前方に認めてこれを注意し、同訴外人の横断歩行の状況に応じて進行し、同訴外人との衝突等の事故回避のため、相当程度の注意義務をしていたものというべく、本件事故惹起の殆んどの原因は、同訴外人が右方から進行して来る同被告の自転車に注意することなく、横断歩行中突如急変して後戻りした結果によるものであるといわざるを得ない。なお、一般に業務上過失傷害致死における業務性は、人の生命、身体に対する危険性を伴なう仕事に反覆継続して従事することを意味し、自転車は人間の脚力を動力として通常低速度で走行し、重量、大きさ、加速性能その他の性能に徹してみても、人の生命、身体に危険性ある乗物とは到底云えないものであるから、自転車の運転行為に反覆継続して従事しても、右意味における業務性はないというべきである。ただ同被告としては、同歩道上を進行し横断歩行者の背後を通過しようとする場合、歩行者が老人であり、かつ一、二歩後退した程度で接触するような間隔で走行すべきでなく、それ以上の間隔を保つて背後を通過すべき程度の注意義務があるものというべく、本件事故惹起に対する被告藤崎康夫および訴外高柳勇の過失割合は、同被告が二割、同訴外人が八割とみるのが相当である。
(相良甲子彦)